「バッシュ」
名前を呼ばれて振り返ればは優しい微笑を湛えいた。
「これからのご予定は?」
「いや、特にはないが。」
問われ答えるが、彼女は多分そう答えるのを見越して聞いたのだろう。
相手が何かをしていれば邪魔をしないように気遣っていることを知っていたから。
「じゃあ寝るまでの時間、私に貰えない?」
「ああ」
君と一緒にいられるなら、と即答した。
a prop
「明りはけないでね」
部屋の電気をつけようとしたら止められてしまった。
「?だが、これでは」
「もう寝るだけでしょ?」
「確かに、、、そうだが・・」
ドアの前で困惑していると、はベットの上をポンポンと叩いて呼んでいた。
「外からの明かりがあるから大丈夫」
「・・・」
そこまで行く事はできるが、ただ理由が今一分からず一歩が踏み出せない。
廊下の明かりで見えるバッシュが何だか不安そうにしていた。それに気が付き補足説明をする。
「あ・・・・うーんと、そういう訳ではなくて」
「・・・・」
「違いますよ、だからここに来てください」
「いや、疑っている訳も、断る理由もないんだが」
「・・真面目な顔で答えなくてもいいのに」
スタスタとバッシュに近寄りその腕を強引に掴みベットへと誘導させる。
相手の表情はまだ闇に馴れていない目では把握できないが、動きからしてまだ不信感があるようだ。
「じゃあ、うつ伏せに寝て」
「、何をするかくらい教えてくれてもいいんじゃないのか?」
「寝たら教えます」
つまり何かが起こる最終段階までは来ているという事で。
諦めてうつ伏せになれば、は履物を脱ぎバッシュが寝ているベッドに飛び乗った。
揺れに驚き起き上がろうとしたが、こっち向いちゃダメと怒鳴られた。――が、それ以上の驚きに声が出なかった。
「何だか疲れてる顔してたからマッサージしてあげよう、って思ってたの」
嬉しさやら恥ずかしさやら、背に感じるの肌の温かさとかでため息が出た。
「あ、、、もしかして嫌・・・だった??」
突然、背中にくっつくように前に倒れてきた。
自分の顔のすぐ横でその声が聞こえ、驚き振り向けば彼女の唇が頬に衝突した。
「す、済まない」
「何でそんなに動揺してるの?」
「いや、、、」
「それともこんな格好するのって、よくない?」
「驚いただけなんだ」
「そっか、、じゃあこんな事をしたのは私が初めて?」
「まぁ・・・・そうだろうな」
「ふぅーん、そっかぁ」
の少しトーンの上がった声。もしかしてよからぬ方向に話が進んでいきはしないかと不安を感じたが、
隣からクスクスと笑い声が聞こえてくる。
「ふふッ、一番かぁ。それって嬉しいかも」
ちゅ、とバッシュの頬にキスをして未だにやけている顔。
当初の目的を忘れてこのまま抱きついて甘えてしまいそうだが、もう一度名残惜しそうにキスをして体を起こした。
「眠たくなったら寝ていいから。」
「しかし」
「その為にこの時間にしたの。」
背中に届いたゆったりとリズム良く響く心地よさ、の手の温かさが身体をときほぐしてゆく。
時折彼女が小さな声で話しかけ、短くそれに答えるとはクスリと笑った。
「寝てね」
「・・・・そうしたいが、君の顔が見えないのは落ち着かない」
「そんなこと言って。・・・じゃあこうしようっか」
はバッシュの背から降りると枕元に移動し正座した脚を斜めに崩すと今度は自分の太腿を指差している。
「どうぞ」
「・・・・」
どうぞ、と言われ差し出された膝枕―
「これなら見えるし」
「・・・・」
「バッシュ、どうかした?」
返事の無いバッシュを見つめるは首を傾げた。
突拍子のない事が連続で続いている。
彼女の破天荒な行動は今に始まった訳じゃない。
だが、余にも自分が考えている範囲を軽々と超えてしまう行動に呆気に取られていると言った方が正しいのかもしれない。
まして、、、膝枕など、今まで誰かにされた事など・・・。
「・・・」
「あ、、これじゃ私が寝れないか。でもいいやそんなの」
「」
「気にしなくていいわ。だってこれならバッシュがどっちを向いたとしても寝顔が見れるものね」
自己完結した彼女に対しバッシュは深い溜息と同時に漏らすように呟く。
「・・・馬鹿な事を・・」
初めてあのバッシュがに対して「馬鹿」と口にしたのだ。
相手を卑下するものではく、明らかに呆れている様子には唇を尖らす。
「惚気ただけよ」
グイと肩を引っ張られ強制的にバッシュの頭はの太腿の上へ。
言葉の様子とは裏腹に見上げた先に彼女の笑顔、薄暗い部屋の中を照らす柔らかい光のように見えた。
「それだけバッシュが好きって事なの」
「・・・」
「だからね、二人で居るときくらいは気を張らないで。
バッシュが寝るまでの短い間くらいは私が見守っているから。」
「・・・・」
一瞬、眉を寄せる表情を見せたバッシュ。
間を置いて何かを紡ごうとした彼の頬をは両手で軽く挟み答えるより先に尋問した。
「−・・もしかして今、「済まない」とか言おうとしたでしょ」
彼女が聡いのか、それとも俺が単純なのか。
「・・・・・その、、、」
「もしかして本気だったの?」
「一体こんな時はどんな言葉を返せばいいのか・・・。」
もうっ、と今度はペチンとその頬を叩く。
「バッシュが私を不安にさせたとかじゃないのよ?。・・・・ただね」
声音が変わりは愛おしさが溢れんばかりにそっとバッシュの頭を撫でる。
「少しでいいから貴方の支えになりたかったの。
いつも一緒に居られないからこんな時くらいは私に寄りかかってほしいなって」
戸惑うほどに幸せだ、と。
「・・・」
「何?」
それを相手に教えたくてバッシュはの頬に手を伸ばし触れる。
「君に出会えてよかった」
「それは私よ・・・バッシュ」
ありきたりな言葉しか浮かばなくて、それでも本心からそう思えて何だか泣きそうになった。